はじめに
釣竿を設計していく上で大事な事はたくさんありますが、ユーザーさんが特に気にするのが釣竿に使われている素材、カーボンのt数じゃないでしょうか?
低弾性、中弾性、高弾性とかそういうワードを見たり聞いたりした事ありませんか?
低弾性は魚のノリが良くて、高弾性は弱くて、みたいな事です。
このt数、釣竿を設計する上で大事な要素ではある事は間違いのない事実なのですが、24tだからどう、40tだからどうと簡単に判断する事はできないという私なりの見解を述べていこうと思います。
是非釣竿・ロッド選びの参考にしてください。
カーボンのt数をユーザーさんが気にするようになった背景に今江克隆氏の影響が少なからずある事を以前記事にしました↓
釣竿設計士の苦悩①
t数で分かるもの
t数とは弾性率の事ですが、わかりやすく言うと曲げ辛さの事かなと思います。
これは簡単に言えば、30tと60tで2種類の何かを作り、全く同じ力を加えた時、0.5の差が見られるという事です。
釣竿の材料としてポピュラーな24tと30tなら0.8の差になるのですが、これは同じ曲げ辛さの竿を作る時に30tの方が2割材料を少なくして作る事ができるというわけでもないのです。
釣竿として機能させるためにはキャストしたり、魚をかけたり抜き上げたり、いろいろな動作があり、曲げ辛さだけを考慮するだけでは製品にならない為です。
曲げ辛さって何?
t数とは曲げ辛さと言いましたが、曲げ辛さとは何の事なのか?
硬さ、張り。どっち?って思いますよね。
これは正直どちらとも言えるのが本音です。
ただ曲げ辛さに関しては注意しないといけません。
t数=曲げ辛さ、の他にカーボン素材の角度というものも釣竿の調子に影響してくるからです。角度を変える事で曲げ剛性がアップダウンします。曲げ剛性とはなにか、この件についてはまたの機会で改めて書きたいと思います。
t数と強度の関係
t数とは簡単に曲げ辛さと言いましたが、強度はどうなの?という事ですよね。
簡単に強度といっても釣竿における強度は、曲がった竿を横からみて外側の引っ張られた時の強度、その反対に内側の圧縮した時の強度、竿が曲がった時に断面が真円から楕円に変形してつぶれるまでの強度等いろいろがあり、説明が難しいのですが、曲げていってどれくらい耐えるかみたいなものです。
少し前だと高弾性は弱い、中弾性は普通、低弾性は強いみたいな認識を持たれている人が多かったと思いますが、最近では高弾性が弱いと言われているのは肉厚がない竿が原因で、本当は強い。みたいな説も出てきているように思います。
しかし、本当はどちらも違います。
同メーカーの同じような特性の24tと30tと40tの強度を比べると、24tが1番強く、40tが1番弱くなります。
じゃあ低弾性の方が強いじゃん。って話になります。
私の認識だけで申し訳ないのですが、恐らく24tと30tは中弾性に属し、40tは高弾性に属します。
そうなると中高弾性の中では低いt数の方が強いということは間違いではないといえます。
では、24tより弾性が低いのを低弾性と呼ぶという認識が前提となりますが、16tのような低弾性になるとどうなるのか?
素材特性が違い比較対象にはなりにくいですが40tよりも強度が低いものがほとんどになります。
この事の理由は素材の専門家に聞かないと分からないのですが、原材料の違いと繊維の脆さによるものと考えております。
ここまでのまとめ
16t 低弾性 (特性が他の素材と違うので参考)
24t、30t 中弾性
40t 高弾性
を比べた時の硬さ張りは
(16t)<24t<30t<40t
強度は
(16t)<40t<30t<24t
になります。
16t 低弾性 | 24t 中弾性 | 30t 中弾性 | 40t 高弾性 | |
曲がり辛さ | ✕ | △ | ○ | ◎ |
強度 | ✕ | ◎ | ○ | △ |
が、これはあくまでも同じ特性という条件付きの話で、ものによっては24tより強い30tが存在します。
しかも例外的な話でなく釣竿の素材としてはポピュラーなもので。
更に言うと、同じt数であっても曲げ辛さと同様にカーボン素材の角度を変える事によって強度もアップダウンするのです。
つまり速い話がt数だけで強度は判断できないというのが正解なのです。
当然、ブランクの太さ、長さ、肉厚、固定方法、等々によって左右します(追記)
t数から分かる事
ここまでt数で分かる事を説明しましたがいかがでしたでしょうか?
t数だけで分かる事なんて正直こんなもんかと思います。
ひとつのカーボン素材だけを使って作る釣竿ももちろんありますが、様々なカーボン素材を使って作る釣竿もどちらも多種多様にあるのが釣竿の世界です。
更にt数の他にも本文に少しお話した素材の角度の件もありますし、設計していく過程の中には他にもたくさんの大事な事があり、カーボン素材のt数はその中のひとつに過ぎないのです。
最後に言い訳
カーボン素材について書くのは少々勇気がいりました。
元釣竿設計士ではあるのですが、カーボン素材の専門家ではないからというのと、何度も申し上げているように、釣竿をつくる過程の中で、素材のt数をそれ単体で考える事がほとんどないからです。